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更新日:2022年2月10日
気持ちの良い言葉ではありませんが「集団は異質なものを排除する」という言葉があります。
脳科学者の中野信子氏は、いじめを論じながら、「(ヒトは)共同体を作るという戦略に頼って生き延びてきた生物種」「共同体を崩壊させる存在こそが脅威であるため、その脅威に制裁行動(サンクション)を起こす機能が発達した」「排除対象を検知する能力(裏切り者検出モジュール)が敏感に反応して、スタンダードと少し違う人を対象にした制裁感情が発動する」「相手を攻撃することが良くないことだと理性でわかっていても、そのブレーキを上回るほどの快楽を得られるようヒトはプログラムされている」と脳科学の立場から、ヒトの本態について述べています。なかなかリアルでシビアな言い方です。
集団は、根源的なところで「揺りかご」にも「魔物」にもなることを自覚し、対応していく必要があります。当センターの事例で印象深いのは、いじめ・発達障がい・LGBTの事例です。LGBTについては、ある子どもからホルモン注射や性転換手術の希望をカミングアウトされて困惑しました。小さな子から男女の制服についての意見が出てきたのも驚きでした。ジェンダー・セクシャリティの問題は、制服・体操服、髪型、名簿、言葉使い、トイレなど身近なテーマで顕在化(※1)してくる可能性があります。
教師も大変です。今までの伝統的な価値観の組織体制で、どんな子にも適切に応じていくことには無理があるように思います。教師個人の努力だけに委ねられてはいけません。手に余ることが頻発して、一人で苦しんでいる先生も多いのではないでしょうか。個人の能力と限界、教師としての思考・行動パターンを知る「自己覚知」が求められています。また、いじめの第三者委員会の検証で必ず求められるのが「組織的対応」「他機関との連携」です。子どもに「助けを求めても、逃げても良いのだ」と言ってきましたが、教師や保護者にも、自分を支えてくれる「リソース」が必要です。
子どもの権利擁護委員は、調整活動として学校訪問を実施していますが、そこでお会いする管理職の見識・統率力・リーダーシップ・実行力に感服することがあります。訪問の用件を伝えた時点で、すぐにその主旨を理解し、具体的な教育プランを考えてくれます。速やかな対応の上で、頃合いを見て報告してくれるようになりました。教育者としての豊富な経験と専門性を感じます。
近年、組織内の人間関係を示すキーワードとして注目されているのが『心理的安全性』です。組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した心理学用語で、「組織で働くメンバーが安心してその組織に属していられる状態が担保され、それによって自分の能力を十分に発揮して自分らしく働ける状態」を意味します。多少はリスクのある言動をとったとしても、それが認められる安心感を共有しているということでしょう。Googleが「生産性が高くマネジメントの行き届いた組織は心理的安全性が高い」との研究結果を発表したことから普及したものです。
ビジョンや目標の共有、ミーティングやディスカッションなどは当たり前ですが、古くからの食事会や飲み会が提唱されていることも面白いと思います。
問題発生の予防、問題解決能力・生産性の向上、組織のイノベーション(※2)を踏まえて、この「心理的安全性」を点検する必要があります。
私はこれに「熟知性の法則&単純接触効果」を加えたいと思います。人は未知のものを不安視し、遠ざける傾向があります。無知は差別や排斥を生みます。相手のことを深く知り、さらに、接触頻度が増えることにより、次第に警戒心が消え、相手に好感を持つようになります。特に発達障がい、LGBT、PTSDなどで感じます。
4回にわたって、子どもの権利擁護活動から見えた学校システムのベネフィット&リスク(※3)について述べてきました。「子どもは学校システムよりも、もっと広いところで生きている」という印象を持っています。
柔軟で懐の広い、オープンで風通しの良い精神風土になっていくことを願っています。
子どもの権利擁護委員 関谷道夫
※1顕在化…隠れていたものが明らかになること。
※2イノベーション…新たな仕組みや習慣を取り入れて革新的な価値を創造すること。
※3ベネフィット&リスク…有益性と危険度。
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